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最高裁判所第三小法廷 昭和52年(オ)1086号 判決 1978年7月25日

上告人

三菱重工業株式会社

右代表者

金森政雄

右訴訟代理人

仁科康

池田映岳

被上告人

亀崎幸平

右訴訟代理人

陶山和嘉子

外四名

主文

原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。

前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

被上告人は、上告人に対し、五九四万四三六〇円及びこれに対する昭和五二年七月二三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

前項の裁判に関する費用は被上告人の負担とする。

理由

一昭和五二年(オ)第一〇八六号事件

上告代理人仁科康、同池田映岳の上告理由第一点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点及び第三点について

本件記録によれば、(一) 被上告人は、当初、訴状の記載に基づき、上告人らの不法行為によつて、治療関係費用、休業損害、逸失利益、慰藉料として合計四九六万〇二四六円の損害を被つたところ、すでにその賠償として、自動車損害賠償責任保険から七八万六〇九五円、第一審相被告鈴木英雄から一万二八二〇円合計七九万八九一五円の支払を受けたとして、これを控除した四一六万一三三一円(附帯請求である遅延損害金の請求についてはしばらくおく。以下同じ。)を請求金額としてその支払を求める旨を主張したこと、(二) 被上告人は、その後、その請求を拡張し、第一審の口頭弁論終結当時においては、前記各損害費目の合計額七九〇万四三九三円に弁護士費用相当額として七〇万円を付加した八六〇万四三九三円を損害額とし、右金額から前記弁済受領額七九万八九一五円を控除した七八〇万五四七八円の支払を求める旨を主張していたこと、(三) しかるに、被上告人は、第一審判決に対する控訴後、原審第一回口頭弁論期日において控訴の趣旨を陳述するに際し、その理由を付することなく、支払を求める金額を七三二万〇七九八円に減縮したが、更に、原審第五回口頭弁論期日には、昭和五一年一月二八日付準備書面の記載に基づき、損害費目中休業損害についての主張を整理して二五万二三四一円を減額した結果、損害額を八三五万二〇五二円とする旨、また、前記鈴木英雄から第一審判決言渡し後新たに四八万四六八〇円の弁済を受けた旨、陳述し、その趣旨に従い請求金額を六五八万三七七七円に減縮したこと、が認められる。

ところで、原判決によれば、原審は、上告人が被上告人に対し、被上告人の請求にかかる弁護士費用相当額を除く前記各費目につき合計三九五万八二六七円の損害賠償債務を負担したことを認めたのであるが、前段説示のように、被上告人は、鈴木英雄その他から右債務に対する弁済として合計一二八万三五九五円を受領したことを自認し、上告人に対する請求金額を算出するにあたつても、みずからその主張にかかる損害額から右弁済受領分の金額を控除したうえ、その残額(控訴の趣旨の陳述に際し減額した四八万四六八〇円についてはしばらくおく。)をもつて本訴の請求金額としているのであるから、原審としては、右申立の趣旨に従い、その認定にかかる上告人の損害賠償債務額から右一二八万三五九五円の全額を控除しなければならなかつたものといわなければならない(なお、弁護士費用相当の損害額を算定するにあたり、右控除前の債務額を基準とするか、控除後の債務額を基準とするかは、右弁済を受けえたについての訴訟代理人の関与の程度いかんによるものと解される。)。しかるに、原審は、上告人が弁済の抗弁を提出していないことを理由として、その認定にかかる損害賠償債務額から被上告人の受領した弁済金額の一部にすぎない二六万六三〇五円を控除するにとどめ、これによつて得た金額に弁護士費用相当額の損害額を加え、上告人に対しその支払を命じているのであつて、右は、ひつきよう、民訴法一八六条の解釈適用を誤つた違法をおかしたことに帰し、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨中この点をいう部分は理由がある。したがつて、原判決中上告人の敗訴部分は、その余の論旨につき判断を加えるまでもなく破棄を免れず、上告人の負担する損害賠償債務額について更に審理を尽くさせるため、右部分につき本件を原審に差し戻すべきものとする。

二昭和五二年(オ)第一〇八七号事件

上告人は、本判決末尾添付の申立書記載のとおり民訴法一九八条二項の裁判を求める申立をし、その理由として陳述した同申立書記載の事実関係は被上告人の争わないところである。そして、右事実関係によれば、上告人が原判決により履行を命じられた債務につきその弁済としてした給付は右条項所定の仮執行の宣言に基づく給付にあたるものというべきであるところ、原判決中上告人の敗訴部分が破棄を免れないことは前記説示のとおりであるから、原判決に付された仮執行の宣言がその効力を失うことは明らかである。したがつて、右仮執行の宣言に基づいて給付した五九四万四三六〇円及びこれに対する右支払の日の翌日である昭和五二年七月二三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める上告人の申立は、正当として認容すべきである。

よつて、民訴法四〇七条、一九八条二項、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(江里口清雄 天野武一 高辻正己 服部高顯 環昌一)

上告代理人仁科康、同池田映岳の上告理由

第一点 <省略>

第二点 原審判決は、第一審原告が、原審に於て、昭和五一年一月二八日付準備書面第三項により、「昭和五〇年三月一七日被控訴人(第一審判被告)鈴木より金四八四、六八〇円の弁済を受けたので、これを控除した金額として、同準備書面第一項記載の通り、上告人を含む被控訴人ら(第一審被告ら)に対し金六、五八三、七七七円を請求する」旨主張しているにも拘らず、右主張を判決中の事実摘示欄に摘示していない。これは民事訴訟法第一九一条第一項第二号、同条第二項に違背するものであり、原審判決は斯る第一審原告主張を看過した為め、その理由第八項「損害の填補」に於て、被控訴人鈴木の右弁済と上告人に対する損害賠償認容額との関係についての判断を遺脱したものである。従つて、原審判決は右の点で、法令違反、理由不備の違法があり、これは、弁護士報酬の賠償額をも含め、請求認容額に影響を及ぼす筈であつて、判決の結果に影響を及ぼすこと明白であり、破棄せらるべきである。

第三点 原審判決は理由第八項「損害の填補」に於て、「第一審原告が第一審被告らから金七九八、九一五円(各金二六六、三〇五円宛)の弁済を受けたことは第一審原告の自認するところ」とし、「第一審被告三菱重工は、弁済の抗弁を主張していない」、との理由を以つて、その賠償額より、金二六六、三〇五円だけの控除しか認めなかつた。この判断には次の違法があり、弁護士報酬の賠償額も含め判決の結果たる請求認容額に影響を及ぼすこと明らかであるから、原審判決は破棄せらるべきである。

(一) 原審判決が援用する第一審判決、事実欄第二、一、5「損害の填補」に、「原告は被告らから損害賠償の一部として合計金七九八、九一五円を受取つた」と記載されている。この意味は、原告訴状等のみならず、第一審判決、理由第六項「損害の填補」にも明白にされている通り、内金一二、八二〇円を第一審被告鈴木から、残る金七八六、〇九五円を保険会社から各受取つていることを言うものである。原審判決は恐らく、右事実欄記載のみを以て、「被告ら」とは「第一審被告ら全部」と即断したものであろう。しかのみならず、進んで右受取金は第一審被告ら三名が均分、弁済をしたものとなし、この前提に基づいて、上告人弁済分と誤認した三分の一の金額のみを上告人の賠償額より控除し、その余を弁済の抗弁なしとの理由で控除しなかつたものである(原審判決理由第八項)。従つて、原審判決は判文上は事実及争点の摘示につき、第一審判決のそれを援用してはいるが、その意味は、第一審判決の摘示とは異つた意味即ち、「第一審被告鈴木から金一二、八二〇円、保険会社から金七八六、〇九五円を各受取つた」趣旨ではなく、「第一審被告ら三名から、それぞれ金二六六、三〇五円を受取つた」趣旨に於て援用しているものと解せられる。然りとすれば、当事者は全く斯る主張をしていないのであるから、この点に関する原審判決の事実摘示は、当事者の陳述に基づかずして事実及争点を記載したことに帰し、民事訴訟法第一九一条第二項の違背がある。又、仮りに、右援用が、第一審判決摘示と同趣旨であつたとするなら、原審判決理由第八項の判断は当事者の主張に対応する判断ではなく、判断を遺脱している。仍て、理由不備乃至理由齟齬の違法がある。

(二) 原審判決は前述の通り、第一審原告受取金中、その三分の二を、弁済の抗弁なしとの理由を以て上告人に命じた賠償額より控除なしかつた。これは、原審が、前述の通り、右受取金が第一審被告ら三名の均分弁済金と誤認したことが一因となつていると考える。併しながら、原審の援用する第一審判決は事実欄第二、一、6「結論」に於て「前述の如くして受取つた金員は被告ら(上告人を含む第一審被告全部)に対する請求額から差引く」旨の第一審原告主張を摘示している。何人の弁済金であろうと、原告自身が弁済ありとして請求額より差引いて請求して来ているのに対し、被告が弁済の抗弁を提出しなければ請求額からの差引が為されぬという様な法理はない。それでは当事者の求める以上を与えることになるのであつて、原審がその様に解釈したとは考えられぬが、若し、然りとするなら弁論主義乃至処分権主義の法理又は民事訴訟法第六一条の解釈を誤まつて適用した違法がある。原審は恐らく第一審判決摘示事実を援用しながら右受取金が請求額より差引かれていることを看過したものと想像される。然りとすれば、原審判決は当事者の主張について判断せず、理由不備乃至齟齬の違法がある。

第四点 <省略>

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